「と、父さん…ι」


 「…何してんのや」


 「これは違っ」






入って来たのは紛れもなくギンだった。

開眼したギンをは久しぶりに見た。

何かが可笑しかった。

いつもならを見て飛びついてくるだろう。

ましてや今裸であるの身に何かないのが可笑しいくらいである。

ギンは自分が羽織っていた服をに投げる。







 「さっさと着ぃや」


 「父さん?」





直ぐにギンの異変には気付く。






 「ギンさんこれは」


 「そんなんどうでもエエねん。二人とも着替えたらリビングに来ぃーや。話さなアカンことあんのや…」






というとギンは部屋の扉を閉め出て行った。

その態度に部屋に残っている二人は首を傾げた。

急いで着替えるとギンが待っているリビングへと移動する。

ギンは自分と向かえ合わせになるように二人をソファーに座らせる。

いつもと違う雰囲気。空気がとても重かった。









 「話って何?」




ギンよりも早くが口を出した。




 「ショック受けるかもしれへんし、ボクのこと嫌いになるやもしれへん
  せやけど、二人にはちゃんと言っとかなアカンことが一つだけあんのや」


 「何?」


 「ボクには二人の子がおったんや。双子やった」

 
 「「…」」


 「せやけど、ボクが仕事に行っている間に、の母親はもう一人の子を勝手にどっかにあげたんや…

  その時からやった...ボクらの関係に亀裂が入ったんわ。

  当然怒ったわ、喧嘩にもなった...せやけど、もうどうにもならへんかった」



 「私が…双子?」


 「せや。はお姉ちゃんやったんや。修兵の姉さんや」


 「俺とが姉弟…」


 「修兵は私の弟?」


 「そうや…言うか言へんか迷ったんや。混乱するやろ?せやけど、
  取り返しのつかなくならん前に何とかせなアカンかったんや」


 「嘘だよ!そんなの父さんが勝手に作ったんだよ!!」


 「嘘やない!…修兵はボクの子や。せやから修兵を見つけたときは嬉しゅうて...
  戻って来てくれへんかな?思ってたんや…」


 「…今更なんだってんだよ」







修兵はギンを睨んだ。











 「ごめんな。許してもらおうなんて思ってへんわ。ただ、一緒に暮らしたかっただけや」


 「俺がどんだけ苦労したかわかってんのか!?」


 「ごめんな…」







修兵はギンの胸倉を掴む。

それを見たは修兵を止める。







 「やめて!!」


 「…」





修兵はユックリと手を放す。






 「殴りたいんやったら殴ったらエエ」


 「…テメーを殴ったって仕方ねーだろ」







修兵は自分の部屋に戻って行った。

はギンを見た。






 「ねー、父さん」


 「何や」


 「本当なの?」


 「本当や…なんやったらDNAでも調べてみてもエエで」


 「そんなことしなくていい。父さん、辛かったんでしょ?」


 「…辛かったんわボクやないわ」


 「毎日修兵のこと探してたんでしょ?そして、毎晩…泣いてたよね?私知ってるんだ...
  だから私は父さんを責めない。それに父さんは悪くないよ!全部母さんが悪いんだ…」


 「、ごめんな」


 「それ、修兵にいいなよ。一番傷ついてるの修兵だからさ。まっ、今は何言っても無駄だろうけどね
  父さん…」


 「何や?」


 「大好きだよ」



がニッコリ笑って言った。


そのままは修兵の部屋へと足を向けた。






 「ボクもや…大好きやで、修兵…」


ギンは細く笑った。








コンコン






 「修兵入るよ」




中からは何も返事がなかった。

はそれを【良い】と解釈し、中に入る。










 「何?落ち込んでんの?」


 「落ち込んでねーよ」


 「そっ。私はかなりビックリしたけどね」


 「…そりゃ、俺もビックリはした」


 「父さんを責めないであげて...父さん修兵のこと凄く探してたんだ」


 「…」


 「私には教えてくれなかったけど、何か探してるのはわかった。
  それとね毎晩「ごめんな…」って言って涙流すの…
  多分一番辛かったのは父さんだから…責めないであげて」


 「わかってるよ…」


 「ありがとう」







はそれ以上話しをするわけでもなく、修兵が座っているベッドの横に腰をかけた。

修兵は少しだけ、と反対側にズレる。

そうすると、は修兵に同じだけ近づく。

そんなことを何回か繰り返すと、もう修兵が動けるスペースがなくなっていた。







 「...なんだよ」


 「それはこっちが聞きたいよ」


 「…別に、お前が近づくから距離取っただけだ」


 「修兵が距離取るから詰めただけ」


 「…」


 「…」






少しの沈黙を破ったのはだった。





 「昨日までがウソみたいだね」


 「幻、だったのかもな」


 「でも修兵が家族でよかった」


 「?」


 「私の家族が一人増えたんだよ!それだけでも嬉しいや」

 「…俺は……」





修兵は言葉を濁らせた。





 

 「俺もが家族でよかった…」






少し悲しいような笑顔で修兵はに笑いかけた。

は修兵を抱き寄せた。

その行動に修兵はもちろんビクリと驚くのだが、修兵もの背中に手を回した。






 「修兵…ごめんね」


 「は悪くねーよ…俺こそ、ごめんな」






修兵の気持ちはとても複雑だった…





俺はと会ったときからが好きだった...

だけど、俺らは姉弟…

俺の感情は許されるものじゃない…

こんなことになるなら初めから…








 「出会わなきゃ良かった…のかもな」







修兵のその一言には修兵から自分の体を引き離した。

そして、一発修兵の頬にパンという音とともに何かがとんだ。

それはの平手打ち…






 「どうしてそんなこと言うの?」


 「…」


 「私達姉弟なんだよ?会えて嬉しくないの?」


 「そうじゃねーよ…俺はお前のこと好きなんだぞ?
  姉弟じゃダメなんだよ…」


 「…」


 「悪い、出てってくれ」







は黙って何も言わずに修兵の部屋を出ると自分の部屋に戻った。
そして、は布団に寝転がり何もするわけでもなく、ただ呆然としていた。






どのくらい経ったのだろうか…

気付くと当たりは暗かった。
しかし、あかりをつける気にもなれずそのまま時を過ごしていた。








 「修兵・...ご飯やで」




と聞こえた。

はゆっくりと体を起すとドアに手を掛け部屋から出る。

修兵も同じタイミングでドアを開け部屋から出る。

二人は一瞬お互い見たが何もなかったかのようにリビングに行く。











 「今日は修兵との好物ばっか作ったんやで!!」










どうや!

と言わんばかりに食卓には数々のおかずが並んでいた。








 「こんなにおかず作ってどうすんの…」

 
 「エエやん。明日の朝とお弁当に入れたら」


 「…まっ、いいか」


 「「「いただきます」」」








三人は晩御飯を食べ始めたが、会話は無し

ギンはこの変な空気が凄く嫌に感じた。

自分が原因であることは気付いていた。











 「何か雰囲気悪あらへん?」


 「そう?」


 「普通じゃねーの?」








な、何やこの険悪なムードは!?

ここは父親であるボクがなんとかせなあかんな!!









 「、今日お父さんとお風呂入ろうな〜」


 「ヤダ」




会話終了やん!!

この娘は会話する気あるんか!?

娘がダメやったら息子や!!








 「修兵はお父さんと風呂入りたいやろ!!」


 「パス」





なっ…なんでこないに冷たいんや!!

わかったで!

二人やと恥ずかしいんやな!

せやったら三人で入るならエエやろ!









 「ほな三人で入らへん?」


 「「パス」」


 「何でや!!!生まれて始めて三人でお風呂やで!?
  こんな歴史的に残るようなイベントにどないして参加せーへんの!?」


 「別に歴史的に残るようなイベントじゃねーだろ」


 「そうそう。だいたいこんな年にまでなって一緒に風呂入るわけないでしょ」







…父さん悲しいくらいに胸にぽっかり穴空いたわ…








 「子供と親のスキンシップや!!」


 「いっつも変なスキンシップしてるでしょ。
  だいたい大人三人が入ったらぎゅうぎゅうで余計疲れるでしょ」


 「は夢があらへんな」


 「夢がなくて結構」


 「ごちそうさま」






修兵がテーブルから離れようとした。






 「まち!」


 「んだよ」


 「このままやったら家族崩壊してまう!!」


 「もともと家族って感じじゃなかっただろ」


 「それはアカンねんて。家族ってわかった以上仲ようせな、な?」


 「今日あんたを父親って知らされて直ぐ馴染めるわけねーだろ」


 「あー、もう五月蝿い。家族でもそっとしといて欲しいときくらいあるでしょ」


 「…あらへんな」


 「…そりゃ、父さんが特別なだけ。私も修兵も大丈夫だからさ、今はそっとしといてよ」














そう言って自分の部屋に入ると修兵の後姿をギンは見ていた。