「ココにいてくれねーか?」
 「…」










私は今海燕さんの腕のなかにスッポリと入っている。
腕から伝わるその人の体温は熱のせいで熱い...
私の心臓が大きく波打つ...








 「一緒にいてくれねーか?」
 「…はい…」








私は後ろ向きに海燕さんに抱かれている。
何故だか体から熱が出てくる…
海燕さんの匂いがする
多分私の顔は真っ赤だろう...








 「…俺さ」







海燕がそのままの体制で話し始める。










 「お前が来てくれて嬉しかった...。前に両親いねーって言ったろ?」
 「…はい」
 「風邪引いた時とかも親にこんなことして貰った事ねーし…。だからスゲー嬉しい」
 
 「はい…」
 「俺の両親は交通事故で死んだって言ったろ?
  それ…俺のせいなんだ…。
  事故の前の日に動物園行きたいって駄々こねてな、
  
  親父は会社を休んで俺を動物園に連れて行ってくれた。
  その日の帰り、事故にあったんだ…
  俺寝てたからよ、あんまり覚えてねーんだけど、気付いたら病院にいて
  隣でお袋が血だらけになってるのを見た...
  訳わかんなくて...ただお袋の名前呼び続けるしかなくて...泣いていた。
  まだ死んだこと理解できなくて、日が暮れても玄関でずっと待ってた。
  『バアバ、お母さんとお父さんいつ帰ってくるの?』って聞いてた。戻ってくるわけねーのにな…
  いつからか俺はそう言わなくなった。ばあちゃんが悲しい顔すっから。
  でも、俺の心の中ではいっつも御袋と親父を探してたんだ...
  どっかで生きてるんじゃないかって。ひょっこり現れてビックリさせんじゃねーかって...
  そんなことは無かった。俺も大人になった頃には、ばあちゃんもいなくなってて一人で暮らしてた。
  俺があの日に言わなきゃきっと、今頃って思うとつれーんだよ…
  何で俺だけ生きてんだろうな…」

 「…海燕さんは悪くないよ...
  海燕さんの所為じゃない。何にも悪くない…だから自分を責めないで」
 「…」
 「その中で一番辛いのは海燕さんでしょ?
 
  自分責めちゃだめだよ。海燕さんの両親は海燕さんが生きていたことがきっと嬉しい筈だよ。
  こんなことで苦しんでなんか欲しくないと思う。
  だって嫌だよ?私…この時海燕さんが死んでたら嫌だよ...。
  海燕さんと出会えて良かったって思うし...
  今生きてくれてて本当に嬉しいよ、だからそういうこと言わないで...死んでたら良かったなんて...」

 「…悪い」








暫くして海燕はを放した。








 「…お前…泣いてんのか!?」
 「泣いてないですよ…心の汗です!」
 「たくっ、ホント嘘つくの下手だな…」









海燕は人差し指での涙を拭き取ってやる。







 「私ちょっとトイレ行って来ま…」
 「泣きてーなら泣けよ…」






海燕は右手での頭をそっと自分の胸に近づける。
は海燕の服を握り、声を殺して涙を流した。













ホント、お前のことわかんねー
何で他人のことで泣けんだよ…こんなに…
自分の身に起こることだと強がってんのにな...











































 『お母さん!動物園行きたい!!』
 『動物園?今度の休みに行こうね』
 『明日じゃなきゃ嫌だ!!明日行くんだ!!!』
 『あらま、困った子ね』
 『海燕どうしてそんなに行きたいんだ?』
 『あのね、明日ぞうさんのショーあるの!!』
 『象のショーか。よし!明日動物園に行くぞ海燕!!』
 『ホント!?』
 『あぁ、本当だよ』
 『お母さん、お弁当忘れないでね!』
 
 『はい、はい』
 『海燕もう寝ないと明日起きれないぞ』
 『はーい。おやすみなさい、お父さん、お母さん』
 『おやすみ、海燕』
 
 『おやすみなさい』






次の日、天気は快晴
絶好のピクニック日和だった。









 『お父さん見てみて、昨日テルテル坊主作ったら晴れたよ!』
 『本当だな。海燕のテルテル坊主は凄いな』
 『海燕、水筒持って来てくれる?』
 『ほら、海燕お母さんのお手伝いしなさい』
 『はーい! はい、水筒。これは俺ので、こっちがお父さんとお母さんの!!』
 『ありがとう』







準備が終わると車に乗り家を出る。
動物園に着くとそこは人の山だった。










 『早く、早く!』
 『そんなに慌てなくても、象さんはにげないわよ』






海燕は両親の手を引っ張り先を急ぐ。
朝一番のぞうのショーも見て、ご機嫌な海燕。
その後も園内をぐるりとまわり、全て見終わった頃にはもう夕方になっていた。





 『あらま、寝ちゃったみたいね』
 『随分と騒いでたからな』
 『あなた、疲れたんじゃない?』
 『いや、大丈夫だよ。さっ、家に帰ろうか』







動物園から自宅まではおよそ2時間…
その間に交通事故は起こった。
その事故とは、対向車側のトラックがぶつかって来るという事故だった。
トラックの運転手は居眠り運転をしていた。
霧がかかって視界が悪かった所為で、トラックが目の前まで来るまで気付かなかったのだ。
必死になって母は海燕を守り、海燕だけが生き延びることができた...














 『お母さーん…グスン…お母さん!!お母さん!!!...』














 『バアバ、お母さんとお父さん何時帰ってくるの?』
 『海燕がお利口にしてたら帰ってくるよ』
 『わかった。バアバの言うこと聞くな。手伝いもするし!』















 『ねぇ、バアバ、まだ足りないのかな?お母さんもお父さんも帰ってこないよ?』
 『…。お仕事忙しくてもう少しかかるって言うてたよ。寒いから家の中に入ろうね』
 『うん…』











 『俺さ、お母さんとお父さんが帰ってきたらコレあげるんだ』
 『折り紙かい?』
 『うん!学校で作った紙飛行機!!それから、学校であったこといっぱい話すんだ!!』
 『そうかい。ともえさんもさんも海燕に会うの楽しみにして帰ってくるからね。
  良い子にしてるんだよ』
 『おぅ!』



































俺は少しだけその時の様子を思い出していた。
神がいるなら今だけ感謝するぜ…
こいつと逢わせてくれたことに...

















 「…ありがとうございました///」







は恥ずかしそうに俺から離れた。







 「いつでも貸してやるよ」






笑顔で海燕が言うとも笑った。







 「やっぱり笑ってる海燕さんが一番ですね!」
 「…そうか?」
 「はい!」
 「ありがとうな…」
 「えっ?」
 「何でもねーよ」
 「気になるんですけど…」
 「気にすんな」
 「余計気になりますって!!」
 「それより、お前帰ったほうがいいんじゃねーか?明日学校あんだろ?」







只今の時刻、11時過ぎ









 「そうですね、明日学校ですよね〜…」





少しだけから魂が抜けた。








 「病人放っておいて帰れるわけないじゃないですか!
 
  はい、熱測って下さいね」








は海燕に体温計を渡す。










 「お前男の部屋に泊まる気かよ…」
 「まー、そう言うことになりますね。…嫌らしい事考えないで下さいよ」
 「しねーよ…」
 「言わなくても海燕さんなら大丈夫でしょうけど。リビング借りますね」
 「ソファーで寝る気か!?」
 
 「それしかないじゃないですか。廊下で寝るなんて嫌ですよ」
 「そうじゃなくてだな…女にソファーで寝せられるかよ」
 「大丈夫ですよ。慣れてますし」
 「慣れてるって…ι」
 「仕事で疲れてよくソファーでそのまま寝ちゃうんですよ」
 「俺がソファーで寝る」
 「バカ言わないでくださいよ!病人は大人しく床で寝て下さい。本当に大丈夫ですから
  サバイバル度99%の女ですから!!」
 「…。何の話だよ」
 「海燕さんは早く風邪を治すことに専念して下さい」
 「悪いな」
 「いいえ」













俺としては一緒に寝て欲しいんだけどな(苦笑)
まっ、無理か...


















その時、何かが話始めた




 「どうして、私が両親嫌いかわかります?」








そう聞いてきた。



  





 

 

最終更新日 2008/03/05